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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)2997号 判決

原告 破産者関東建設株式会社破産管財人 鈴木厳

右訴訟代理人弁護士 桂川達郎

被告 西山利示

〈ほか六名〉

右被告等七名訴訟代理人弁護士 中村喜三郎

主文

1、被告等は原告に対し連帯して金一五〇万円およびこれに対する昭和四四年二月二二日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2、原告その余の請求を棄却する。

3、訴訟費用は五分し、その三を被告等の負担とし、その余を原告の負担とする。

4、この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告は「被告等は原告に対し連帯して金二五〇万円およびこれに対する昭和四四年二月二二日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

「一、訴外関東建業株式会社(以下単に破産会社という)は、昭和四三年四月一六日、東京地方裁判所昭和四二年(フ)第三二五号破産事件につき、破産の宣告をうけ同時に原告が破産管財人に選任された。

二、破産会社は、昭和四〇年八月二七日、被告等七名が発起人となり、土木建築、設計施行および管理等を営業目的とし、資本金二五〇万円、設立に際して発行する株式数五、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円で、被告等七名および訴外奥田秀二郎、同氏家孝夫、が左記のとおりこの全株式を引受け、且つ、その株金全額の払込があったものとして、設立されたものである。

二、六〇〇株 被告 西山和示

一、二〇〇株 被告 的場文敏

二〇〇株 被告 中村政一

二〇〇株 被告 中村博八

二〇〇株 被告 小林新一

二〇〇株 被告 横田精一

二〇〇株 被告 奥田賢二郎

一〇〇株 訴外 奥田秀二郎

一〇〇株 訴外 氏家孝夫

三、ところが、破産会社の右資本金二五〇万円は、以下記載のとおり、現実には破産会社に払込まれていないのである。

(1)  即ち、破産会社の設立登記手続は、訴外株式会社協和銀行学芸大学駅前支店作成に係る昭和四〇年八月二六日付右資本金二五〇万円の株式払込金保管証明書を添附してなされているのであるが、右証明書は、被告西山和示が訴外松本仙治から、破産会社の設立登記完了後に右株式払込金を右訴外銀行支店から払戻を受けて返済するとの約で、同日、金二五〇万円を借受け、右金員を訴外銀行支店に保管委託して、同銀行からその交付を受けたものである。従って、被告西山和示は当初から右金員を破産会社の資金として確保する意図を有しなかったものである。

(2)  而して、破産会社は、右株式払込保管金二五〇万円を、その設立登記完了後三日経過した昭和四〇年八月三〇日に、右訴外銀行から払戻をうけて、同日、右訴外銀行支店扱に係る破産会社の普通預金口座にその全額を預け入れたが、その翌日である同年同月三一日に、右普通預金中から金二〇〇万円を払出して、これを、同日、訴外品川信用組合目黒支店との間に当座取引契約を締結して、同信用組合支店扱に係る破産会社の当座預金口座に預け入れた。

更に、破産会社は、その翌日である同年九月一日に、右当座預金中から金一〇〇万円を、右普通預金中から金四八万円を各払出して、これに現金二万円を加え、この合計金一五〇万円を、同日、訴外東調布信用金庫碑文谷支店との間に当座取引契約を締結して、同信用金庫支店扱に係る破産会社の当座預金口座に預け入れた。

(3)  而して、破産会社は、右各当座取引開始直後である昭和四〇年九月八日に、右訴外品川信用組合目黒支店扱の右当座預金中から金三三万円を、又右訴外東調布信用金庫碑文谷支店扱の右当座預金中から金一一五万円を各払出して、この合計金一四八万円を、右訴外協和銀行学芸大学駅前支店扱に係る普通預金に預け入れて、その預金残金額一五〇万円となし、同日、右普通預金一五〇万円全額を払出して、これを被告西山和示が前記のとおり破産会社設立に際しその株式払込金の「見せ金」に使用する目的で訴外松本仙治から借受けた金二五〇万円の内入弁済として、右松本に弁済したものである。

(4)  又、破産会社は、昭和四一年五月一五日頃、被告西山和示が訴外松本仙治から借受けた右金二五〇万円の残存債務金一〇〇万円の支払のために右松本に対し左記小切手一通を振出した。

金 額 一〇〇万円

支払人 東調布信用金庫碑文谷支店

支払地 東京都目黒区

振出日 白地

振出地 東京都目黒区

振出人 破産会社

而して、破産会社は、昭和四二年六月二〇日、訴外松本仙治に対し、同訴外人から右小切手一通の返還を受けると同時に、右借入残金一〇〇万円を支払った。

四、右の如く、破産会社の資本金二五〇万円については、株金の現実払込がなされていないものである。

従って、破産会社の発起人である被告等七名は、商法一九二条二項により、連帯して、未払込の右株式金二五〇万円を、破産会社に支払うべき義務があるものである。

そこで、原告は、被告西山和示、同的場文敏、同中村政一、同中村博八、同横田精一および同奥田賢二郎に対しては昭和四四年一月二五日到達の内容証明郵便を以って、又、被告小林新一に対しては同年二月一六日到達の内容証明郵便を以って、夫々、右郵便到達後五日以内に、右未払株式金二五〇万円を、原告の事務所に持参の上、破産会社に払込むべく催告したが、被告小林新一を除くその余の被告等は右催告期限である昭和四四年一月三〇日を、又、被告小林新一は右催告期限である昭和四四年二月二一日を、夫々徒過して、これを払込まないものである。」

と述べ、被告主張の抗弁事実を否認し、

再抗弁として、

「仮りに、本件株式金の一部が、破産会社の設立費用に充当されたとしても、商法第一六八条第一項第七号により、会社の負担に帰すべき設立費用はこれを定款に記載しなければその効力がないところ、破産会社の定款には右設立費用につき何等の記載もなされていないから、被告等の抗弁は理由がない。」

と述べた。

被告等訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実第一、第二項は認めるが、同第三、第四項は否認すると述べ、

抗弁として、

「本件株式金は、破産会社設立のための登記手続費用に約二〇万円を支出し、その余は机・椅子・工事足場・測量器・カメラ等の什器備品の購入のため支出されたのであって、破産会社の資本金は当時充足されていたものである。」

と述べ、原告主張の再抗弁事実を否認した。

≪証拠省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、原告主張の請求原因事実第三、第四項(但し、見せ金の借入先は吉田某)を認めることができ、この点につき反証はなく、被告主張の抗弁事実は、その費目、品名、数量、価額、支払年月日等の具体的主張を欠くので、主張自体不十分であるうえ立証がなく失当である。

ところで、株式会社の設立の場合における「見せ金」は会社の設立に際して、発起人が払込銀行以外の第三者から金員を借受けて株式の払込にあて、会社の成立後、間もなく、これを払込銀行から引き出して借入先に返済する場合をさすところ、かような「見せ金」による株式の払込は無効であると解せられる。ところで、本件についてみると、本件金員中金一五〇万円は、会社成立後三日を経た昭和四〇年八月三〇日に払込銀行である株式会社協和銀行学芸大学駅前支店から払戻して、その後間もない、同年九月八日に借入先に返済しているから、右にいう「見せ金」にあたり会社の資本を充実したものとは認め難いが、本件金員中残余の金一〇〇万円は会社成立後三日を経た昭和四〇年八月三〇日に同支店から払戻してはいるけれども、借入先に返済したのは会社成立後約一年一〇月を経た昭和四二年六月二〇日であるから、これを「見せ金」とは認め難く、かつ、会社の資本充実を害したものとも解し難い。

そうだとすると、その余の点を判断するまでもなく、被告等は原告に対し連帯して未払株式金一五〇万円とこれに対する最終催告期限の翌日である昭和四四年二月二二日から支払済みに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よって、原告の本訴請求は、右の限度において、正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸尾武良)

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